個別映画評
友情ある説得
The Friendly Persuation

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年代 | 1956年 |
国 | アメリカ |
時間 | 139分 |
監督 | ウィリアム・ワイラー |
脚本 | マイケル・ウィルソン |
音楽 | ディミトリー・ティオムキン |
出演 | ゲイリー・クーパー、ドロシー・マクガイア、アンソニー・パーキンス、フィリス・ラヴ、リチャード・アイヤー |
当時、「恐怖の報酬」と二本立てで公開されたこの映画は、監督W・ワイラーが「ローマの休日」、「必死の逃亡者」の次に発表した、初のカラー作品である。当時のカラー映画は“総天然色”と呼ばれ、ポスターには決まってこの文字が彩りゆたかに書かれていたものだ。モノクロ全盛時代の中で、カラフルなその文字を見ると、それだけで心が躍ったものだった。また、本作は、題名の「お堅い」イメージからか、ひっそりと併映されたというイメージだったが、観賞後の印象は、ほのぼのと温かく、心に沁みる味わいの、まさに“珠玉”の名編だった。
これは、クェーカー教徒で農夫のジェス(ゲイリー・クーパー)と、その家族の物語だ。ドラマの前半は、一家五人のなにげない日常が、牧歌的な風景の中にユーモアいっぱいに紹介される。オープニングのガチョウの“サマンサ”に追い回される末っ子少年とのエピソードが、ガチョウの迷演もあって愉快だ。クェーカー教徒の、平和主義、非暴力などの戒律を、“人間”であるがゆえに守りきれないおかし味を、ワイラー演出は緩急自在に描き分け、たくまざる笑いもちりばめ飽かせない。見事な展開だ。チョッとお茶目な父親G・クーパー、教えを厳しく守る妻D・マクガイア、ナイーヴな長男A・パーキンス、隣家の青年に憧れ、夢見る娘P・ラヴ、そして、腕白少年R・アイヤーそれぞれが、いづれも適役で素晴らしく、見ていてほのぼの気分にさせられる。しかし終盤、南軍の侵攻とともに家族の周辺もあわただしくなり、“非戦”の教えがズシリと重く一家にのしかかることに……。
いかに厳しい戒律があっても、家族を守るためには戦わざるを得ない現実。ここにワイラーが求めるテーマが見えてくる。「恐怖の報酬」がサスペンス映画の傑作なら、こちらは、ヒューマンドラマの秀作であり、どちらも記憶に残る名作に違いない。
(2007/05/24)